宇宙の遥か彼方、生気の失われた褐色の惑星で。
ナレーター
今からそれほど遠くない未来、世界は終わりを迎えようとしていた。他の惑星のように、かつてこの星も炎と雨の中で生まれ、長い年月を経て冷やされ、そして何百万年もの間、生命の多様性を生み出してきたのであるが・・・。
南極大陸の上方にあるドレーク海峡の近く、南大洋に位置するある離島での話。
ナレーター
ここは荒れ果てた孤島。ある一人の少女が住んでいた。彼女は、数少ない生存者のうちの一人。これから彼女の人生の物語が始まろうとしていた。
私たちすべての生命の物語…
12年前。埃だらけのさびれた丘の上の遊び場を通り抜け、遠く離れた漆黒の海に向かって風が吹いていた。ぶらんこに乗っているのは、60代半ばの老人。とても背が高く、痩せていて、黒と白髪の混じった長髪をしている。
彼は放置された古い手作りのぶらんこを、優しく漕いでいる。
その男は、ゆっくりと前後に揺れながら、流木を削って、ぶつかり合う二つの螺旋を作っていた。それは見事な形をしていた。
丘の麓から奇妙な容姿の女が近づいてきた。女の背は低く、幅広だが、完璧なほどに釣り合いが取れている。女の漆黒の髪型は、古代の勾玉の形によく似ている。彼女は妊娠していて、質素な服に小さなバッグを肩から掛けていた。
女は疲れ果てながらも、やっとの思いで丘を登りきり、老人のもとへ向って歩いていった。小さな台地の端へ辿り着いた時には、全身汗で濡れ、息を切らして手を膝についた。
老人は女の気配に気付かずに、集中して螺旋状の形を削り続けている。
女は腹を立て、老人の背後から横へ移動し、ブランコの金属部分に手をかけた。老人は驚き、思わず飛び上がった。
母
すいません… 驚かせてしまって。
老人
なんということだ… これは現実か?
彼女は頭を縦に振る。
老人
あんた何者だ。
母
あまり時間がないんです。
老人
どうやってここまで来た。
母
沖合で事故に遭って。でも、どうにかしてここまでたどり着くことができました。
老人
怪我をしているのか?
彼女は再び静かにうなずく。老人は彼女の肩を抱え、彼女が立ち上がれるよう支えた。
老人
手を貸すよ。
母
ありがとうございます。
老人
どこから来たんだ?
母
遠い、ガマロンという所です。
老人
おいおい、本当かよ。
母
ご存知なのですか?
老人
ああ、子供の頃そこに住んでいた…ずっと昔の話だが。
老人は彼女の肩にさがる小さなバッグを代わりに持った。彼女はぶらんこを見つめている。
母
ここに子供がいるのですか?
老人
いや、子供がいたことはない。この島は廃墟と化した研究基地だ。この島に住むようになって、私が自分でこのぶらんこを作ったんだ。
彼女は突然、ふらふらと地面に倒れ込んだ。老人は腰をかがめて彼女を持ち上げ、丘を下り、ドーム型の自分の家に彼女を運んだ。